column
スポーツドリンクと口の中
スポーツの時、水分補給のためにスポーツドリンクを摂ることがあるでしょう?
スーッと水分が体にしみこんでいく感じを経験したことはきっとあなたにもあるでしょう。
では飲んだ後の口の中を想像したことがありますか?
今回はスポーツドリンクとお口の健康について考えてみましょう。
まず最初に有名な実験をご紹介します。
グラスの中に清涼飲料水がたっぷり入っています。
この中に抜いた歯を糸でつるして漬けて変化を観察しました。
1時間、2時間と経つうちになんと歯はみるみる溶け出して数時間のうちにかけらもなくなってしまったのです。
私たちが飲んでいる飲み物は、程度は違いますがほとんどが酸性です。
清涼飲料水、フルーツジュース、コーヒー、お茶、ワイン、そしてビールなど。
これらの飲み物が前述の実験のように歯にとって危険でない理由は、実は唾液の働きによるものです。
唾液にはカルシウムやリンを豊富に含んでいます。これらはもともと歯を作っているミネラルで唾液は生きている限り継続的にこのミネラルを歯に与えているのです。
唾液は実にたくさんの防御作用を持っていて唾液に含まれるプロテイン(タンパク質)は歯をコーティングして強い酸やアルカリの刺激から守っています。
そして唾液は生物が生きるために必要な免疫作用(ウィルスや異物などの外敵と戦う力)を備えています。口の中の健康のために必要不可欠なのです。
指のちょっとした傷口をなめたりしたことは誰でもあるでしょう。
無意識のうちに体に備わったこの免疫力を使っているのかもしれません。
野生の動物たちは薬とか手に入りませんから傷口をなめる、という表現のとおり唾液の力で治そうとしているわけですね。
さてスポーツのときの水分補給は大変重要なことです。
人間の体は約60兆個の細胞から出来ています。
その1つ1つの細胞が生きて正しく機能するためには水分が必要不可欠です。
スポーツの際に限らず体の水分とナトリウムなどの電解質(ミネラル)のバランスを保つことは思わぬ怪我を防いだり筋肉のダメージを最小限に抑えるために大変重要なことです。
それでは口の中の水分(唾液)はサッカーなどの激しいスポーツのとき、変化があるのでしょうか?
運動時には呼吸が速くなり、汗もかきます。体から水分が失われるわけですので当然唾液の分泌も少なくなります。
積極的に水分を摂ることで脱水を防ぎ唾液の分泌を円滑にすることが証明されています。
現在世界中で市販されているスポーツドリンクは体内への水分の吸収を速やかにするために約6-8%の炭水化物が糖という形で含まれています。又電解質も体液に近い成分で含まれ、水と一緒に失われるのを防いでくれます。糖を加えたほうが水だけの場合と比べて水分が細胞にいきわたるのが速くなるのです。
また、激しい運動の際の頻繁なスポーツドリンクの飲用が虫歯の発生に影響があるとも報告されています。
スウェーデンのエリートサッカー選手、17歳から30歳までの口の中の細菌、歯科治療の経験、歯の面の細菌(プラーク)のつき方に加えてどのくらいの頻度でスポーツドリンクを飲んでいるかを調査したのです。
それぞれの選手には同年齢で同じような環境で育った友達のうち、スポーツをあまりしない人たちを連れてきてもらってその人たちの状況と比較しました。
その結果、エリート選手たちは細菌の着き方はもとより、細菌の数がスポーツをそんなにしない人たちに比べて多く、したがって歯科治療経験も多かったのです。
この報告ではスポーツドリンクの頻繁な摂取との関係が有意にみられました。
このことからエリート選手たちは虫歯になるリスクが高いといえそうです。
かといってスポーツドリンクが虫歯を作っているのでは決してありません。
そして細菌の数が多いからといって必ずしも病気になるわけではありません。
私たちの口の中には約850種以上の細菌が常時、存在しています。
口の中は湿っていて暖かく、栄養もたっぷりあって細菌が住むのに最高の環境です。
しかも歯の裏や歯と歯の間、歯ぐきと歯の隙間など細菌が安全に隠れる場所がたくさんあります。
良い細菌にとっても悪い細菌にとってもすごく快適な棲家なのです。
虫歯も歯周病(前号参照)もこの細菌が関係しています。
虫歯や歯周病になるリスクファクターの中には細菌の構成と唾液の性質、分量、分泌パターンなどが密接に関係しています。
スポーツドリンクに含まれる糖は細菌のかっこうの栄養源でもあります。
何よりも重要なことは口腔衛生習慣です。
みんな誰でも歯を磨くことは知っています。
問題は何回歯ブラシをするかではなく、どのようにやっているか?いつするか?そのクオリティが問題なのです。
同じようにスポーツの最中の飲み物の摂り方も、出来るだけ歯に悪影響がないように、そして体に適切に水分補給が出来る摂り方をしないといけません。
以上のことからわかるように
1.口の中を適切な歯ブラシなどの方法でいつも出来るだけきれいにしておく。
2.スポーツドリンクを飲んだ後、水でうがいして歯の面にドリンク中の糖が出来るだけ長く触れさせないようにする。
一人一人歯の形も並び方も違います。また細菌の構成も唾液の成分も違います。
ほんの少し生活習慣を見直すことで防げる病気はたくさんあります。
病気になったとしても早く回復できるか軽くすむかも大切な問題です。
誰もがしている歯ブラシとはいえ自分にとって正しい方法なのかは歯周病専門医にたずねてください。
■橘みずき/歯学博士
スーッと水分が体にしみこんでいく感じを経験したことはきっとあなたにもあるでしょう。
では飲んだ後の口の中を想像したことがありますか?
今回はスポーツドリンクとお口の健康について考えてみましょう。
まず最初に有名な実験をご紹介します。
グラスの中に清涼飲料水がたっぷり入っています。
この中に抜いた歯を糸でつるして漬けて変化を観察しました。
1時間、2時間と経つうちになんと歯はみるみる溶け出して数時間のうちにかけらもなくなってしまったのです。
私たちが飲んでいる飲み物は、程度は違いますがほとんどが酸性です。
清涼飲料水、フルーツジュース、コーヒー、お茶、ワイン、そしてビールなど。
これらの飲み物が前述の実験のように歯にとって危険でない理由は、実は唾液の働きによるものです。
唾液にはカルシウムやリンを豊富に含んでいます。これらはもともと歯を作っているミネラルで唾液は生きている限り継続的にこのミネラルを歯に与えているのです。
唾液は実にたくさんの防御作用を持っていて唾液に含まれるプロテイン(タンパク質)は歯をコーティングして強い酸やアルカリの刺激から守っています。
そして唾液は生物が生きるために必要な免疫作用(ウィルスや異物などの外敵と戦う力)を備えています。口の中の健康のために必要不可欠なのです。
指のちょっとした傷口をなめたりしたことは誰でもあるでしょう。
無意識のうちに体に備わったこの免疫力を使っているのかもしれません。
野生の動物たちは薬とか手に入りませんから傷口をなめる、という表現のとおり唾液の力で治そうとしているわけですね。
さてスポーツのときの水分補給は大変重要なことです。
人間の体は約60兆個の細胞から出来ています。
その1つ1つの細胞が生きて正しく機能するためには水分が必要不可欠です。
スポーツの際に限らず体の水分とナトリウムなどの電解質(ミネラル)のバランスを保つことは思わぬ怪我を防いだり筋肉のダメージを最小限に抑えるために大変重要なことです。
それでは口の中の水分(唾液)はサッカーなどの激しいスポーツのとき、変化があるのでしょうか?
運動時には呼吸が速くなり、汗もかきます。体から水分が失われるわけですので当然唾液の分泌も少なくなります。
積極的に水分を摂ることで脱水を防ぎ唾液の分泌を円滑にすることが証明されています。
現在世界中で市販されているスポーツドリンクは体内への水分の吸収を速やかにするために約6-8%の炭水化物が糖という形で含まれています。又電解質も体液に近い成分で含まれ、水と一緒に失われるのを防いでくれます。糖を加えたほうが水だけの場合と比べて水分が細胞にいきわたるのが速くなるのです。
また、激しい運動の際の頻繁なスポーツドリンクの飲用が虫歯の発生に影響があるとも報告されています。
スウェーデンのエリートサッカー選手、17歳から30歳までの口の中の細菌、歯科治療の経験、歯の面の細菌(プラーク)のつき方に加えてどのくらいの頻度でスポーツドリンクを飲んでいるかを調査したのです。
それぞれの選手には同年齢で同じような環境で育った友達のうち、スポーツをあまりしない人たちを連れてきてもらってその人たちの状況と比較しました。
その結果、エリート選手たちは細菌の着き方はもとより、細菌の数がスポーツをそんなにしない人たちに比べて多く、したがって歯科治療経験も多かったのです。
この報告ではスポーツドリンクの頻繁な摂取との関係が有意にみられました。
このことからエリート選手たちは虫歯になるリスクが高いといえそうです。
かといってスポーツドリンクが虫歯を作っているのでは決してありません。
そして細菌の数が多いからといって必ずしも病気になるわけではありません。
私たちの口の中には約850種以上の細菌が常時、存在しています。
口の中は湿っていて暖かく、栄養もたっぷりあって細菌が住むのに最高の環境です。
しかも歯の裏や歯と歯の間、歯ぐきと歯の隙間など細菌が安全に隠れる場所がたくさんあります。
良い細菌にとっても悪い細菌にとってもすごく快適な棲家なのです。
虫歯も歯周病(前号参照)もこの細菌が関係しています。
虫歯や歯周病になるリスクファクターの中には細菌の構成と唾液の性質、分量、分泌パターンなどが密接に関係しています。
スポーツドリンクに含まれる糖は細菌のかっこうの栄養源でもあります。
何よりも重要なことは口腔衛生習慣です。
みんな誰でも歯を磨くことは知っています。
問題は何回歯ブラシをするかではなく、どのようにやっているか?いつするか?そのクオリティが問題なのです。
同じようにスポーツの最中の飲み物の摂り方も、出来るだけ歯に悪影響がないように、そして体に適切に水分補給が出来る摂り方をしないといけません。
以上のことからわかるように
1.口の中を適切な歯ブラシなどの方法でいつも出来るだけきれいにしておく。
2.スポーツドリンクを飲んだ後、水でうがいして歯の面にドリンク中の糖が出来るだけ長く触れさせないようにする。
一人一人歯の形も並び方も違います。また細菌の構成も唾液の成分も違います。
ほんの少し生活習慣を見直すことで防げる病気はたくさんあります。
病気になったとしても早く回復できるか軽くすむかも大切な問題です。
誰もがしている歯ブラシとはいえ自分にとって正しい方法なのかは歯周病専門医にたずねてください。
■橘みずき/歯学博士